はじめに:自己肯定感への違和感
最近、「自己肯定感」という言葉をよく耳にします。教育現場や児童デイサービス、さらには自己啓発の世界でも盛んに使われています。
「自己肯定感を高めましょう」「自己肯定感が低いと人生がうまくいかない」――そんなフレーズを聞くたびに、私はどこか違和感を覚えてきました。
なぜなら、私は自分で言えば「自己肯定感が低い」側の人間だからです。けれども、そのおかげで人に相談し、仲間と協力し、アドバイスをもらいながら、むしろ幸せに暮らしている面があるのです。自己肯定感が低いことが必ずしも不幸につながるとは限らないのではないか、そんな疑問を抱いてきました。
第1章:自己肯定感とは何か
「自己肯定感」とは、自分の存在や価値を肯定的に受けとめる感情を指すとされます。研究者によっては「自分を大切な存在だと感じる力」「他者からの評価に左右されず自分を認められる感覚」とも説明されています。
しかしこの概念にはあいまいさもあります。人によっては「自分を好きになること」と捉えたり、「自分は特別だと思うこと」と混同してしまったり。言葉が広がるにつれ、その意味はバラバラになっているのが実情です。
第2章:似た概念との違い
心理学の分野には「自己肯定感」と似て非なる言葉がいくつもあります。
- 自己効力感(Self-efficacy) アルバート・バンデューラによって提唱された概念で、「自分はこの課題をうまくやれる」という見通しや信念のこと1。
- 自己受容(Self-acceptance) 心理学者カール・ロジャーズが重視した姿勢で、長所も短所も含め、ありのままの自分を認める態度2。
- 自尊感情(Self-esteem) 社会的に尊重される存在だと感じる感覚。
これらの違いを整理してみると、「自己肯定感」という言葉が万能のように語られている現状が、いかに乱暴であるかがわかります。
第3章:過剰な「自己肯定感」のリスク
私が懸念しているのは、自己肯定感を高めることが目的化してしまうことです。
「自分はできる」「自分は正しい」と過剰に思い込むことは、裏を返せば他者の意見を受け入れにくくし、失敗したときには大きな挫折感につながります。さらに、他人より優れていなければならない、という競争的なプライドにすり替わってしまう危険もあるでしょう。
実際に心理学の研究でも、「自己肯定感が極端に高い人は、批判を受けたときに攻撃的になりやすい」という報告があります3。つまり、自己肯定感が強ければ強いほど健全とは限らないのです。
第4章:自己受容の大切さ
では、何を軸にすればいいのでしょうか。私は「自己受容」が答えだと思います。
自己受容とは、できない自分、弱い自分をも含めて「これが自分だ」と受け入れること。これは自己肯定感よりも広い概念であり、しなやかな強さを育てます。失敗や弱点を否定せず、「それも私の一部」と認めるからこそ、安心して人に助けを求め、仲間とつながることができるのです。
私自身、自己肯定感は低いけれど、自己受容の感覚を持つことで、むしろ人との関わりが豊かになったと感じています。
結論:自己肯定感よりも自己受容を
世の中には「自己肯定感を高めなければ」というプレッシャーがあふれています。けれども、本当に大切なのは「自己受容」ではないでしょうか。
無理に自分を正当化するのではなく、不完全な自分をそのまま抱えながら、他者と支え合い、少しずつ前に進む。その姿勢こそが、人生をよりしなやかに、そして幸せにしてくれるように思うのです。
注釈
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Rogers, C. R. (1961). On Becoming a Person: A Therapist's View of Psychotherapy. Houghton Mifflin.
- Baumeister, R. F., Smart, L., & Boden, J. M. (1996). Relation of threatened egotism to violence and aggression: The dark side of high self-esteem. Psychological Review, 103(1), 5–33.