【なるなる人物ライブラリー】

チョウ・ユンファ

―「持たないことで自由であり続けた男」―

 

1.貧しさから始まった人生

チョウ・ユンファは1955年、香港の南丫島(ラマ島)に生まれました。当時の香港は今の国際金融都市とはまったく違い、貧富の差が激しく、島での生活は質素そのものでした。彼の父は船員、母は農業と家事を担い、家計は決して楽ではありませんでした。

少年時代の彼は、学校が終わると家計を助けるために働き、野菜を売り、郵便配達をし、ホテルで雑用をするなど、いわゆる「子どもらしい時間」はほとんどありませんでした。この体験が、彼の中に「生きるとは何か」「働くとは何か」という感覚を、非常に早い段階で刻み込んだと言われています。

「貧しかったけれど、不幸だと思ったことはない。家族がいて、今日を生きられたから」

ここにすでに、彼の人生観の原型があります。
“所有”よりも“生”を重んじる感覚です。

2.成功と虚無を同時に知った俳優人生

重要なのは、彼が「成功の中毒」にならなかったことです。

俳優としての転機は、TVB(香港のテレビ局)の俳優養成所に入ったことでした。最初は端役や失敗も多く、決して順風満帆ではありません。しかし1980年代、ドラマ『上海灘』で一気にスターとなり、その後『男たちの挽歌』『ゴッド・ギャンブラー』『ハード・ボイルド』などで、香港ノワールの象徴的存在になります。

多くの俳優が名声・金・贅沢に飲み込まれていく中で、彼は常に距離を保っていました。一時期、ハリウッドにも進出しますが、文化的違和感や役柄の制限に悩み、「無理に世界に合わせる必要はない」と静かに香港に戻っています。この判断にも、彼の価値観がよく表れています。

3.驚くほど徹底した倹約生活

パパラッチに撮られた彼の姿は、
「国民的スター」ではなく「近所の気さくなおじさん」そのものです。

「お金は自分のものではない。
使わなければ、誰かの役に立てる」

4.「全財産を寄付する」という覚悟

彼と妻は、「子どもを持たない」という選択をしています。そして、自分たちの死後、財産のほぼ全てを慈善団体に寄付すると公言しています。推定資産は数百億円とも言われますが、本人にとってその額は重要ではありません。

ここで大切なのは、「寄付するから立派」なのではなく、最初から“自分の所有物だと思っていない”という姿勢です。

彼はこうも言っています。「私はただ、一時的に預かっているだけ」。これは、仏教的であり、同時に非常に現代的な思想です。資本主義社会のど真ん中にいながら、執着を持たない

5.人生観の核心:「自由であること」

「自由であるために、持たない」

成功者でありながら、成功に支配されなかった稀有な存在。それがチョウ・ユンファです。

6.なぜ、私は彼に親近感を覚えるのか

私が感じている 「お金は自分の物ではない」という親近感。それは、 人を支える仕事をし、価値を循環させる側に立っている人間の感覚だと思います。

保育・警備・不動産・労務。どれも「奪う仕事」ではなく、「預かり、支える仕事」。

チョウ・ユンファは俳優という立場で、なるなるグループは事業という立場で、 規模は全く違うけれど同じ場所に立っている。だから響くのだと思います。

結びに

彼は「人間として壊れなかった成功者」だと思います。

そしてそれは、 これからの時代に最も価値を持つ生き方だと、私は思っています。

北川仁美