囲み保育とは、一人の子どもに対して複数の大人(保育者)が取り囲むように関わり、手厚くケアする保育形態を指します。札幌市で小規模保育園「キッズルームなるなるの木」を運営する一般社団法人アイエムアイでは、創業当初からこの囲み保育を実践してきました。
同園では「お子様一人に複数の保育スタッフで対応する」という独自のスタイルを掲げており、これが「囲み保育」「手厚い保育」の具体像です。通常の保育園では保育士1人が複数の子どもを担当しますが、囲み保育では子ども一人ひとりに対して十分すぎるほど大人の目と手が行き届く体制をとっています。例えば0歳児クラスであれば法律上の配置基準は保育士1人につき子ども3人までですが、囲み保育ではそれ以上に人員を手厚く配置することで、「子どもを複数の大人が囲む」環境を作り出しています。
この囲み保育の理念は、「保育の原点は手厚い人の関わりにある」という信念に基づいています。子どもの数に対して保育者が多ければ多いほど、子どもに対する目配り・気配りの質が上がり、安全で安心できる保育環境になるという考え方です。また、当社アイエムアイでは早朝・夜間・休日といった時間帯の保育ニーズにも応えるために人材を厚く配置し、既存の保育園では難しかった柔軟な保育サービスを実現しています。こうした取り組みは2013年の創業以来続けられており、同園では「他の園では泣いてばかりいた子が笑顔になった」といった声も多く聞かれるそうです。では、実際に囲み保育にはどのようなメリットがあるのか、子どもへの効果と保育士への効果に分けて、世界の事例や研究結果も参照しながら詳しく見ていきます。
囲み保育最大のメリットは、子どもの心身の安定と健やかな発達にあります。大人の手厚い関わりによって子どもは安心感を得やすく、不安やストレスが軽減されます。実際、保育の現場では大人の目が行き届く小集団ほど子どもは落ち着き、泣いている時間が減るといった経験則があります。同様の傾向は研究でも示されています。米国国立児童健康・発達研究所(NICHD)の大規模調査によれば、保育者対子どもの比率が1対1に近づくほど、保育者が子どもに対して「敏感で前向きな関わり」を持てる可能性が高まることが明らかになりました。逆に1対4(保育者1人に幼児4人程度)の比率になると、ごく一部(8%)の保育者しか高度に敏感な応答ができないとされています。これは子ども一人ひとりに十分目が届く環境でこそ、子どもの発するサインにいち早く気づき丁寧に応答できることを示唆しています。
十分な人数の大人に囲まれた環境では、子どもは自分の要求や不調をすぐ受け止めてもらえるため情緒が安定しやすくなります。例えば体調不良や友達とのトラブルが起きても、保育者が複数いれば即座に対応でき、ケガや事故を未然に防ぎ安全を確保できます。こうした安心・安全な環境に守られていることで、子どもは自己探求や遊びにより集中でき、結果として社会性や言語能力の発達が促されると指摘されています。実際、1歳児クラスの研究では子どもに対する保育者の人数が多いほど、子どもの言葉の理解やコミュニケーション能力が進み、認知発達のスコアが高かったとの報告があります。また、幼児期に少人数・高スタッフ比率の保育環境を経験した子どもは、後に仲間との協調性が高まり、問題行動が少なくなる傾向も確認されています。
さらに、複数の大人と関わることで多様な社会的経験を積める点も見逃せません。囲み保育の環境では、子どもは複数の保育者からそれぞれ異なる関わりや刺激を受けます。「ひとりの子をみんなで育てる」という姿勢は、いわば「It takes a village to raise a child(子育てには村〈コミュニティ〉の力が必要)」という諺の体現とも言えます。イタリアのレッジョ・エミリア・アプローチでは、保育者だけでなく親や地域社会も含めた大人たちが協力し、子どもを大きなサポートネットワークの中で育むことを大切にしています。レッジョ・エミリアの幼児教育施設では教師と親と子どもが協働し、家庭と園で原則を共有することで子どもに一貫した安心感とサポートを提供するとされます。このように多くの大人に見守られているという実感は、子どもの自己肯定感を高め、安心して周囲と関われる土台となります。実際、ハンガリーのエミー・ピクラー博士が創設した乳児院(ローチー養育院)では、担当保育者が少人数の子どもを受け持ちつつチーム全体で子どもを見守ることで、親のいない環境でも子ども達が安定した愛着関係を形成し、健全に発達できることが示されました。ピクラーの施設で育った子ども達はフォローアップ調査において社会に適応し自立した大人に成長していたことが報告されており、「人に囲まれ大切にされる養育」の力を物語っています。
囲み保育は子どもだけでなく、支える保育士側にも大きなメリットがあります。まず一人当たりの業務負担が減り、心理的・肉体的な余裕が生まれる点です。複数担任制で保育を行うことで、行事の計画や日々の保育準備、片付けまで一人で抱え込まずにチームで役割分担できます。その結果、残業時間の削減や負担の分散につながり、保育士一人ひとりにゆとりが生まれます。また保育内容についても、得意なことは積極的に担当し、苦手なことは他のスタッフにフォローしてもらうといった協力が可能になり、保育の質向上とスタッフ個々のスキルアップにつながります。新人の保育士にとっても、常に経験豊富な先輩と一緒に働ける環境は心強く、困ったときにすぐ相談できる安心感があります。先輩の実践から学ぶ機会が日常的に得られるため、職場内研修のような効果も期待できます。
さらに、人員にゆとりがあることで休憩や急な休みへの対応がしやすくなり、職場全体の余裕が増すという利点もあります。余剰の人手がなければ保育士が体調不良でも無理をして出勤せざるを得ない場合がありますが、囲み保育的な体制で人員が厚いと代わりに入れるスタッフの確保が容易になります。これらは結果的に保育士の燃え尽き防止や離職率の低下につながります。実際、米国の調査では担当する子どもの数が多すぎる(人手不足の)状態が保育者のストレスを高め、離職の一因になっていることが指摘されています。特に乳幼児を預かる現場では、適切な人数配置でないと保育士は強いストレスを感じやすく、コロナ禍の調査では早期離職の増加とも関連づけられました。裏を返せば、余裕ある人員配置で一人ひとりの負担を軽減することが、保育士のメンタルヘルスを守り職場定着を促す上で極めて重要だということです。
もっとも、複数の保育士で協働するにあたってチームワークやコミュニケーションの重要性も指摘されています。人数が多ければ意見交換や情報共有の機会も増えますが、それが円滑に行われないとストレスになる恐れもあります。実際に複数担任の現場では、保育観ややり方の違いから意見がぶつかるケースもあるため、定期的な話し合いと方針のすり合わせが欠かせません。アイエムアイのように家族経営で阿吽の呼吸が取りやすい職場では人間関係のストレスは少ないかもしれませんが、一般的には「大人同士が支え合う体制」を維持するマネジメントも大切になるでしょう。それでも総じて言えば、囲み保育は「保育者が孤軍奮闘しないで済む」環境を作り出し、結果として保育士の離職率の低下につながる好循環が期待できます。
メリットの多い囲み保育ですが、実践には課題やコスト面のハードルも存在します。最大の課題はやはり人件費負担の大きさです。子ども一人に対して複数の保育士を配置するため、通常の保育所運営と比べ圧倒的にコスト高になります。日本の公的基準でも0歳児3人に保育士1名が配置されるところ、囲み保育ではそれ以上の配置が必要となるため、定員いっぱいまで子どもを受け入れても収支は厳しくなりがちです。アイエムアイでは家族経営の強みを活かし、保育士資格を持つ家族がボランティア的に関わることでこの人件費問題をクリアしています。加えてグループ全体で他事業の収益で補填し、「保育単体では赤字でもグループ全体で採算を取る」という独自の経営モデル(ミッションドリブン型経営)を敷いています。一般の営利保育事業者が同じように囲み保育に参入しにくいのは、この採算面のハードルが高いためです。その意味で囲み保育は、同社グループの差別化要因・強みともなっています。
また、人員を多く抱えるための人材確保も課題です。保育士不足が叫ばれる中、必要な定数以上にスタッフを揃えるのは容易ではありません。十分な数の人材を確保し、その質(スキルや人柄)を維持するには、魅力ある職場環境と待遇を用意する必要があります。しかし低予算で人を増やせば、今度は一人当たりの給与が下がり士気低下や質の低下を招く恐れもあります。このジレンマに対し、米国の専門家は「子どもの健やかな発達には一対一の関係性が必要で、安易な定員拡大(人員削減)は幼児教育の質と安全に大きな代償を伴う」と警鐘を鳴らしています。言い換えれば「子どもは工場の製品ではなく、人数を増やせばスケールメリットが出るというものではない」ということです。囲み保育を持続可能な形で実践するには、それ相応の財源確保や運営上の創意工夫が求められるでしょう。しかし反対に、それだけのコストと努力を払ってでも「手厚い保育」を追求する価値があることは、前述のメリットから明らかだとも言えます。
囲み保育に近い発想や手法は、世界の様々な幼児教育・保育の場にも見ることができます。その一つが前述したレッジョ・エミリア・アプローチ(イタリア)です。レッジョ・エミリア市発祥のこのアプローチでは、「教育は子ども・教師・親・地域社会の協働によって成り立つ」とされます。クラスには複数の教師が配置され(共同担任制)、さらに専任のアトリエスタ(創造活動専門の教師)やペタゴジスタ(教育コーディネーター)も加わりチームで子どもたちをサポートします。加えて、家庭からも親が積極的に保育に参加し、子どもを取り巻く大人全員で子どもの学びと育ちを支えるのが特徴です。このような環境で育つ子どもは、自分が大勢の大人に見守られ意見を尊重されていると感じるため、自己表現力や主体性が伸びやすいと言われます。実際、レッジョ・エミリアの卒園児を追跡した研究では、社会性や問題解決能力の高さなど長期的な好影響が報告されています(高等教育進学率や社会的参画の向上等)。
ハンガリーのピクラーアプローチも囲み保育と通じるものがあります。エミー・ピクラー博士の方針では、乳児院において少人数の子どもに対し決まった保育士が丁寧に関わりつつ、スタッフ全体で子どもたちを温かく見守りました。ピクラーの施設では**「プライマリーケアギバー制度」(担当制保育)**を採用しつつも、一人の保育士だけに任せきりにせずチーム全員で子どもの成長を支えた点が特徴です。その結果、施設で育った子ども達が情緒的に安定し、社会に出た後も良好に適応できるほど健全に発達しました。これは従来の孤児院で見られがちな愛着障害や発達遅滞を最小限に抑えた画期的成果であり、世界中の保育専門家が注目しました。「乳幼児期の発達にとって愛着形成がどれだけ重要か」を示すエピソードとして、ピクラー研究所の成功は語り継がれています。
さらに視点を広げれば、少人数での家庭的保育(ファミリーデイケア)や、異年齢保育で大人がゆったり関わる環境なども類似した利点を持ちます。北欧諸国では幼児教育の質が高いことで知られますが、その背景には手厚いスタッフ配置と小規模グループの徹底があります。例えばオランダ発祥のピラミッドメソッドでは、子ども主体の活動を支えるために保育者の自主性と子どもの自主性をともに尊重し、必要に応じて大人が寄り添い深く関わる体制をとります。欧米の研究では、乳幼児のグループサイズを6人以下、保育者対子ども比を1対3程度に抑えることで保育の質が飛躍的に向上することが示されています。特に0~2歳児では一人ひとりに十分な応答ができる環境が不可欠であり、保育者1人あたり子ども3人以下という水準が発達支援に望ましいと提言されています。これはまさに囲み保育が実践している水準であり、世界的に見ても理想的な幼児ケアの一つの形なのです。
「囲み保育」は、人手とコストをかけてでも子どもに寄り添う価値を追求した保育手法です。12年間の実践を通じて直感的に感じられていた効果――子どもの情緒が安定し笑顔が増えること、保育士の負担が減り離職が防げること――は、世界の事例や研究によって裏付けられました。十分な大人に見守られ安心できる環境で、子ども達は泣いて過ごす時間が減り、代わりに遊びや学びに意欲的に取り組めるようになります。そうした経験の積み重ねが社会性や知的発達の土台を築き、長い目で見れば子どもの人生に良い影響を与えることが示唆されています。一方で、囲み保育を支える保育者側にもゆとりと協力体制が生まれ、質の高いケアを提供し続けるためのポジティブな職場循環が生まれます。
もちろん、誰もが簡単に真似できる運営手法ではありません。しかし、「子どもの最善の利益」を考えるとき、一人の子を多くの大人で支える温かな関わりは理想的な姿の一つであると言えます。現代の社会課題である待機児童解消やコスト削減の文脈では真っ先に削られがちな部分かもしれませんが、囲み保育がもたらす長期的なメリットは計り知れません。アイエムアイの取り組みは、その実践例として貴重な示唆を与えてくれます。子どもたちの笑顔と健やかな成長、そして保育士たちのやりがいと安定――その両方を実現する囲み保育のメリットを、今後もさらに検証・発信していくことで、保育業界全体の発展にも寄与できるのではないでしょうか。子育てに関わる「村」の一員として、私たち大人が手を取り合い、未来を担う子どもたちに最善の環境を提供していきたいものです。
参考資料:
アイエムアイ「囲み保育」の秘密(NotebookLMより)
Google NotebookLMによる動画解説
Google NotebookLMによる音声解説